動向レポート Vol.1
公共図書館の動向を新聞記事見出しに探る(1)

まえがき

当研究所では,日常的に公共図書館に関わる動向の把握に努めています。それらのうち,図書館員,研究者,自治体の図書館担当者など,種々の利害関係者の間で共有することに意味のある情報・知見を,ウェブサイトに『動向レポート』として公表していくことにしました。

第1号は,新聞に掲載された記事見出しの分析です。

ここでの手法は,ねらいを予め設定し調査したデータを素材にする,従来のメトリックス的な手法によるものではなく,コンピュータに自動的に蓄積されていくデータのなかに意味のあるパターンを発見する,いわゆる「ビッグデータ」分析にならうものです。われわれ図書館の環境では常に巨大なデータが用意できるわけではありませんが,データが巨大でなくても,品質が確保でき,状況文脈が取り出せれば,その分析は意味を持ちます(Rufus Pollock)。私どももこの手法を今後さまざまな機会に活用してみようと考えております。

未来へのフォーサイトを得るためには積み重ねたデータから事態を見極めていかねばなりません。手始めは,この新聞紙上に現れた公共図書館の動向分析です。

所長 永田 治樹

1.はじめに

当研究所では,公共図書館に関する動向を広く探るため,新聞紙上の図書館関連記事見出しのデータを収集・蓄積し,かつその分析を試みています。現在公共図書館が,社会にどのように受けとめられているかの一端をとらえようとする取り組みです。大規模なデータを効果的・効率的に解析するためデータマイニングを活用し,今回の分析では,まずは図書館活動に直接的に関わる用語の分析をしました。

2.調査経過

2.1 図書館関連新聞記事見出しの収集

収集した範囲は,ここ1年余りの,62週間分の国内発行の新聞の記事見出し(全国紙を中心に,収集できた全国紙地方版や地方紙のデータも含む)です。

2.2.1 形態素解析とカウント

まずは,オープンソースの形態素解析エンジン「MeCab」を使ったプログラムにより,2.1のデータの形態素解析を行いました。テキストデータを,用意する辞書を基に,形態素(意味を持つ最小の単位)に分割する方法です。図書館員には,目録や索引の作成時のわかち書きなどに使われる手法といったほうが,イメージしやすいかもしれません。さらに,上述のプログラムにより,品詞を判別し,抽出した形態素のうち名詞の出現度数をカウントしました。

この結果から複数回登場する図書館関連の基礎的な用語をピックアップし下記の表1が作成されました。度数の回数だけニュースとして取り上げられたわけで,ここ1年余りの間の,各テーマの注目度を読み取ることができるかもしれません。表1を見ると,例えば『貸し出し(貸出)』と『読書』は100回以上出現しています。当然のことですが,伝統的に図書館が果たしている機能・役割は新聞紙上でも扱われるようです。

表1 62週分の新聞記事における,図書館関連の基礎的な用語の出現度数

名詞 出現度数
貸し出し(または貸出) 118
読書 116
開館 84
司書 76
資料 63
蔵書 52
雑誌 34
書籍 27
閲覧 20
来館 19
分館 17
選書 13
収集 11
名詞 出現度数
検索 10
メディア 10
返却 9
分類 8
ライブラリー 8
ボランティア 8
予約 6
本館 5
館長 5
目録 4
書庫 4
開架 4
アーカイブ 4

2.2.2 KWIC索引による分析

表1に見る,新聞紙上において注目された用語の具体的な意味合いをとらえるために,KWIC索引(キーワードの前後の文字列をともなった形で表す索引のこと)を作成し,それらがどのような用語とセットで扱われているかを確認してみました。

図1のフォーマットで,それぞれ用語を文脈から吟味しました。ただし,「図書館」と「図書」は多くの見出しがヒットし,文脈を特定することが困難なため,その作業は実施していません。

図1 KWIC索引の一部

2.2.3 KWIC索引の内容の検討

このKWIC索引から読み取れることを,表1であげた名詞ごとにその意味合いを検討し,次の表2に取りまとめてみました。

表2 図書館関連の基礎的な用語とKWIC索引から読み取れること

名詞 読み取れること
貸し出し
(または貸出)
・「自動貸出機」や「無人で書籍貸出」などが含まれる見出しがあり,セルフサービス化進展の示唆
・貸出量の増減については,ニュースになることが多い。また,それが図書館評価の主要な指標となっている
・「コンビニで本貸し出し」や「宅配貸し出し」などが含まれる見出しがあり,来館せず利用できる貸出サービスの出現
・「電子図書館」や「デジタル絵本」などが含まれる見出しがあり,電子図書館サービスの導入
・「福袋」や「やみなべとしょかん」など,貸出の利用促進につながる工夫
読書 ・「読書通帳」や「読書手帳」による読書活動推進
開館 ・開館日の増加や開館時間延長の広がり
・新たに図書館の開館,とくに「複合施設」としての展開が一般化
司書 ・「学校司書」が多く見られ,学校図書館法改正後の高い注目度
・複数の「子ども司書」の記事があり,図書館体験の推進
資料 ・地域資料,郷土資料の記事が複数見られ,公共図書館として収集すべきコレクションであることの確認
・震災資料の記事が複数見られ,震災による,図書館,ひいては社会への影響
・資料購入費の記事が複数見られ,図書館の資料収集への注目
・資料のデジタル化やネット公開の記事が複数見られ,デジタルアーカイブへの注目や,ウェブを利用した情報源へのアクセス向上の取り組みの広がり
蔵書 ・蔵書数増加の記事が複数見られ,それが図書館評価で指標となっている現状
・蔵書検索システム・アプリの記事が複数見られ,図書館におけるシステムサービスの普及
・蔵書の同自治体内での分散や,コレクションの電子化,などの記事があり,資料保存のあり方への注目
雑誌 ・「雑誌スポンサー制度」が多くあり,雑誌を幅広く収集する工夫
書籍 ・電子書籍の記事が多数見られ,電子図書館サービスへの注目
・書籍購入費の記事が複数見られる。図書館の書籍収集への関心
・書籍消毒機の記事,利用者の清潔感へのニーズ
閲覧 ・閲覧席数への注目
・『絶歌』について,一部の図書館では,遺族への配慮や青少年への影響を考慮し,学術目的の館内閲覧に限った提供や18歳未満の閲覧禁止などとする対応をとられた
来館 ・来館者増加に関する記事が複数見られる。図書館評価での〔新〕指標
・来館困難者へのサービスや来館しなくても利用できるサービスについての記事が見られ,図書館利用に障害のある方へのサービスの取り組み
分館 ・クラウドファンディングを活用した資金調達を取り上げたもの,図書館における資金調達のための新しい切り口の導入
選書 ・一部の指定管理者による選書に対して,問題視する声
収集 ・震災関連の写真やチラシなど,多様な資料の収集についての記事,震災が図書館の資料収集を多様化
・過去の体験についての証言記録の収集,記録という形での資料収集の工夫した取り組み
検索 ・スマホでの検索や音声検索,一括検索,専用アプリでの該当書架への案内など,検索の利便性の向上に関する記事,多様な検索の仕組みの提案と導入
メディア ・「メディア図書館」,「メディアセンター」などの用語,収集する情報資源の多様化と「図書館」という名称のゆらぎ
返却 ・返却ポストの増設(書店など)や駅前窓口の設置による,返却のサービスポイントの増加の記事が見られ,利用者の動線等の条件を考慮した,図書館利用の推進につながる工夫
分類 ・選書と同様に,一部の指定管理者による独自方法を問題視
ライブラリー ・「まちライブラリー」,「マイクロライブラリー」の記事が見られ,読書を介したコミュニティづくりの進展
ボランティア ・戦時中の有り様を聞き取り,記録を作成。ボランティアの活動の広がりと,その活動への注目
予約 ・予約本の受け取りができる駅前窓口の設置や,図書館が発行する冊子に案内記事とともにQRコードを掲載して検索・予約を促す試み
本館 ・新システムの導入や窓口の民間委託,改修計画,新設などの記事があり,本館におけるさまざまな変化に関わる活動への注目
館長 ・館長の全国公募と,企業のマスコットキャラクターを一日館長にした記事
目録 ・目録カードづくり体験などの催し,図書館パブリシティの向上
書庫 ・新設や一般開放の記事,利用者サービス向上につながる,書庫関連の工夫した取り組みの実施
開架 ・開架の資料を増やそうという取り組み,開架資料数の注目と,利用者に見える,手にとれる資料数を多くすることでの,魅力的な図書館づくり
アーカイブ ・「デジタルアーカイブ」,「震災アーカイブ」の記事

3.まとめ

図書館に関わる人々にとっては,これらにはとくに目新しいものはないかもしれません。しかしここで明らかになった結果は,現在の公共図書館の動向を示すものであり,また図書館が一般社会でどのように把握されているかを確認することに役立つものです。

「貸出」などの用語が頻出していた一方,図書館界が注力しようとしている,例えばレファレンスサービスに関わるキーワードは,あまり出現していません。貸出数は,図書館活動のわかりやすい指標として注目されています。しかし,レファレンスサービスは件数だけではその意味するところがわかりにくいこともありますが,市民の注目を浴びるほど普及していないのでしょう。そのあたりメディアは敏感です。図書館は目指すところを実現しようとするならば,レファレンスに関する話題を展開し,メディアを引き付け,自分たちの目指すところを立証する必要があります。

また,KWIC索引の検討を通して,図書館員の重要な仕事としてこれまで認識されてきた選書や分類のあり方や情報通信技術の記事だけではなく,さらには読書通帳や雑誌スポンサー制度,クラウドファンディングのような新しい切り口の記事が判明しました。これらの記事からは,時代に合致した図書館のあり方や新しい取り組みを試みている図書館があることが読み取れるのではないかと思います。

記事の枠の関係で,今回はここまでとします。このような結果を得て,当研究所としては,この方法が意味のあるものだと感じており,この分析をさらに続行しております。図書館の基礎的用語を通した調査について扱ったこの「公共図書館の動向を新聞記事見出しに探る(1)」を追って,次の「公共図書館の動向を新聞記事見出しに探る(2)」では,今回の基礎的な用語に対して,図書館活動を明示しない言葉や,固有名からみた分析によって動向をさらに探るつもりです。

なお,次回には,データマイニングの手法として特徴語(重要語)抽出の方法(例えば,tf-idf法)や複合名詞の特徴語を抽出するソフトウェア(例えば,「言選Web」)を併せて活用します。

2016.9.14 牧野 雄二