動向レポート Vol.4
マイクロ・ライブラリーをマッピングする

近年,人々の交流を育む取り組みのひとつとして,小規模なスペースでの図書館づくりが活発化している。新聞記事見出しをとらえた本研究所の『動向レポート』Vol.11)においても,「まちライブラリー」,「マイクロ・ライブラリー」が時好の言葉として挙げられた。「個」の力で,コミュニティづくりを,「図書館」というアイデアのもとに行う活動を,わが国では「マイクロ・ライブラリー」と称しているようである。また,長野県小布施町などの「まちじゅう図書館」のように,公共図書館の側からこのアイデアを取り込んだ,あるいは連携した事例も見られる。

「マイクロ・ライブラリー」という言葉をときおり耳にするようになったのは,ここ数年のことである。2013年8月に大阪で第1回マイクロ・ライブラリーサミットが開かれ,2014年3月の『カレントアウェアネス』(No.319)において「小特集 マイクロ・ライブラリー」が掲載されて以降,しばしば話題にのぼる。

「まちライブラリー」の主宰者である磯井純充は,この「マイクロ・ライブラリー」という用語を次のように定義している2)

(1)個人の私的蔵書を基本に一部,またはその全部を他者に開放し閲覧提供ないし貸出を行っている。

(2)図書を通じて自己表現し,活動拠点の活性化,参加者の交流を目途として活用されている。

(3)運営主体が,個人または小規模な団体によるものであり,法的な規制や制度にしばられない運営がなされている。

また,この範疇に属するものを,その活動内容に即して分類すると次のようになるという。

表1 磯井の「マイクロ・ライブラリー」の分類

タイプ 特徴
図書館機能優先型 公共図書館の役割を私設図書館でも果たそうとするタイプ。貸出重視。コストが高く,運営資金が懸念される。
テーマ目的志向型 蔵書のテーマや利用目的にこだわっているタイプ。館の活動目的が明確であり,主催者が運営費を負担し,直接運営している。
場の活用型 活動の場所を活性化しようとするタイプ。場の利用者の業務・学習支援の一環。場の共用が目的であり,読書活動は付随的な要素。
公共図書館連携型 公共図書館が主体的な役割を果たしているタイプ。公共図書館は活動の場を提供しながら,市民との連携をつくる。運営が安定。
コミュニティ形成型 本で人と出会う,コミュニケーションを大切にしているタイプ。コストも少なく,相互の人間関係が生まれやすい。

この定義・分類は状況を的確にとらえていて,昨今話題となっている「マイクロ・ライブラリー」を理解するのによい手がかりになる。

ただし,これまで地域の文庫活動などに携わってきた人々にとってこの定義は,うなずきにくいかもしれない。というのも,磯井は,「従前の私設図書館や文庫活動との類似点も見られるが,[マイクロ・ライブラリーには]どちらかと言えば個人の社会参画による自己実現,自己表出を第一義にしている事例が多い。イベントの実施や参加者の交流に主眼が置かれ,読書環境実現に力点を置いてきた私設図書館・文庫活動とは違いがある」2)という。しかし,文庫が,とくに初期において女性の社会参加の場であり,自己実現の場であったこと3)など,この定義(2)に共通するところである。むろん (1),(3)の定義は双方に当てはまる。「マイクロ・ライブラリー」という用語は,もう少し広く理解したほうがよいようだ。

また,設置者の意向や目的が,活動内容やその持続性に深く関わるため,ライブラリーを始めた動機やきっかけをもとに分類されるとした表1においては,基準が設置主体であったり,蔵書であったり,目的であったりする。磯井も「マイクロ・ライブラリー」によっては複数の分類にわたるものもあり,明確には分類できないとしている。確かに「マイクロ・ライブラリー」はその多様性を特徴としており,その分類は容易ではない。

先般,あちこちで出現している「マンション・ライブラリー」がどのようなものかという問い合わせが,私どもにあった。コミュニティづくりのための図書施設ということで,「マイクロ・ライブラリー」に類するものだと見当をつけたが,それでは「マイクロ・ライブラリー」とはどのようなものなのか。それがこのレポートに取り組むきっかけだった。マイクロ・ライブラリーの特徴や可能性を探るために,これまでの資料を中心に取りまとめてみた。

1.各国の「マイクロ・ライブラリー」活動

1.1 海外の小さな図書館

「マイクロ・ライブラリー」という言葉は,国際的にも一般的なものだろうか。World Encyclopedia of Library and Information Services. 3d ed.(ALA, 1993)において,1960年代に民間の事業として韓国で広がった農村読書施設「マウル(村落)文庫」について,“micro library”という語彙を使った説明がある。その意味は,公の施設が整わないなかで,人々がつくった「小さな図書館」というものである。しかし,この種の図書館は,little library,tiny library,mini library,miniature library,pop‐up libraryなどの名称もあり,とくにmicro libraryがそれらを取りまとめるものではないし,それらの活動のあり方も多様である。そこで,主として現在公共図書館の整備が進んでいる国々における活動を見渡してみた。個人や小規模なグループによるボランタリーな読書支援活動,本によって交流を生み出している活動などさまざまである。便宜上,それらを形態的に整理してみると,次の固定型,移動型,Web型の三つの展開にまとめられる。

(1)固定型

ヨーロッパで広がりを見せているPublic book case4)(公共の本棚)は,駅前や大通り,住宅街などさまざまな場所に設置されている本棚で,自由に本を寄贈したり交換したりすることができるものである。元々は1991年,Michael CleggとMartin Guttmannによってグラーツで始められた,芸術的な公開実験としてのDie offene Bibliothek5)(公開図書館)の影響を受けたものである。2002年ごろヨーロッパ全土へと広がり,現在も数を増やしている6)

このような屋外型の本棚の類で,特徴的な活動としてTelephone Box Library7)(電話ボックス・ライブラリー)がある。近年減少している電話ボックスを残そうという取り組みのひとつで,電話ボックス内を本棚に改装し,地域の人々に寄贈された本を置き,自由に貸し借りできるというものだ。2009年にイギリスで始められ,チェコやアメリカなど各国に広がっている。

世界的に広まったLittle free library8)(小さな無料図書館)は,2009年にTodd Bolによってウィスコンシンの自宅の庭先で始められた活動である。地元の地域社会の人たちに,庭先に設置した巣箱のようなものに収められた本を無料で貸し出すというもので9),ヨーロッパのPublic book caseの小型版ともいえる。そのため,個人の私的蔵書であることが多く,設置する本箱にも個性的なものがあり,自己表現の場になっている。

これらの小さな図書館は,本棚を管理する人(主にボランティア)の存在が非常に重要であり,持続性を左右する。

(2)移動型

車や動物などを利用した移動図書館のような活動や,公園などで不定期に開催される一時的な図書館が各国で見られ,多くが読書機会の提供を目的としている。その中で,特に交流を主眼においた活動が見られるのは,2011年にニューヨークで始められたThe Uni Project10)である。公共の場所のためのプログラムを企画する非営利団体Street Lab11)によるもので,すべての場所を公共の読書室と学習の場に一時的に変換することを目的としたプログラムである。移動式の簡易な本棚とベンチ等を街中に設置し,貸出は行わず,読書空間の共有から交流が生まれることを目的としている。また,美術や科学,数学などの多様な学習支援プログラムも展開している。

(3)Web型

本棚を持たず,アイデアとして普及しているのが,「世界中の街中を図書館に」という標語で,2001年にアメリカで始められたBookCrossing12)(本の交差点)という活動である。読み終えた本を,BCID(Book Crossing ID)という固有のナンバーを付けて,誰かが拾ってくれる場所に本を置く,もしくは直接本を手渡すなどして,本に世界中を旅させるというもので,WebページでBCIDを入力して検索すれば,本の現在地や他の人のコメントを見ることができる。2006年前後には,このような本の無料交換サイトは世界各国に広がりを見せている。近年では,新しい形態として公共交通機関に本をドロップiするBooks on the Move13)(動いていく本)という活動が注目されている。2012年にロンドンで始められたBooks on the Underground14)(地下鉄のなかの本)が発端であり,現在では14か国に広まっている。米国図書館協会公共図書館協会(Public Library Association)がPublic Libraries OnlineにおいてBooks onthe Moveを取り上げ, Mobile Library15)(移動図書館)と紹介している。

1.2 日本の小さな図書館

冒頭にも触れたように,磯井は,「マイクロ・ライブラリー」と,従前の私設図書館・文庫活動とは違いがあるとしている。しかし,「文庫」とは「民間の個人やグループが自由に設置し,運営している子どものためのミニ図書館のことである」16)(清水正三)と定義され(この定義では子どもという対象の限定はあるものの),その参画者の意図や多様な活動は,「マイクロ・ライブラリー」と通じる。ここでは,文庫活動を含め,民間によるいくつかの小さな図書館づくりをここに取り上げてみる。

(1)私設の専門主題図書館

民間による図書館として,まず挙げられるのは私設の主題をもつ図書館である。その多くを占めるのは専門図書館である。しかし専門図書館は,「組織の目標を追求する上で,そのメンバーやスタッフの情報要求を満たすため,営利企業,私法人,協会,政府機関あるいはその他の特殊利益集団もしくは機関が設立し維持し運営する図書館。コレクションとサービスの範囲は,上部もしくは親組織の関心のある主題に限定される」17)(『ALA図書館情報学辞典』丸山他訳)と定義されるように,組織の構成員の情報要求を満たすことを第一義としており,「マイクロ・ライブラリー」とはこの点で区別できると考えられる。「マイクロ・ライブラリー」と呼ばれるものは,蔵書のテーマにこだわりがあっても,組織のものではなく基本的には同好の士を集める図書館である。

(2)「文庫」(「子ども文庫」,「家庭文庫」,「地域文庫」)

二次世界大戦後,「文庫」は,母親たちを中心に地域の子どもたちに読書の機会を提供する場として生まれた。1951年から1960年の文庫活動の黎明期3)の後,1965年に刊行された石井桃子による『子どもの図書館』(岩波書店)をきっかけに,大きく数を増やした。1970年代には家庭文庫から集団形態をとる地域文庫が目立ち始め,個々の文庫を繋ぐ文庫連絡会が組織され,公立図書館の設置を要求する住民運動の母体となっていった。1980年前後に文庫の数はピークを迎え,その後は社会,文化状況の変化を背景に徐々に減少する。

元々「家庭文庫」というものは,公立図書館が充実,普及するまでの一種の代替的,補完的な施設としての役割が求められており,将来的にはその土地の図書館に吸収発展されるのが理想とされていた。しかし1990年代には,文庫は図書館の肩代わりではなく,「図書館がバックアップしていく市民の運動」18)ととらえられ,双方がお互いに主体性を保ちつつ協力していくことが期待されるようになった。

2000年以降新しく設置された文庫は,「家庭文庫」の割合が多く,運営者の高齢化と少人数化が進行している。文庫を調査した汐崎順子によると,「同じ活動を共にする他者とのつながりを通して,社会的,公共的な視点での文庫の使命や価値観を自覚すること」19)が,文庫活動が現在も引き継がれているゆえんであるという。

(3)「民間図書館」(NPO法人情報ステーション20)

NPO法人情報ステーションは,2004年に地元の大学生により立ち上げられたまちづくり団体である。2006年にふなばし駅前図書館を開館させ,現在では千葉県船橋市を中心に63か所の図書館を運営,もしくは業務提携という形で関与している。情報ステーションが運営する図書館は「民間図書館」と名乗っており,蔵書は全て寄贈,スタッフは全てボランティア,誰でも無料で利用することができる民設民営の「公共図書館」21)だとしている。図書館を中心にコミュニティを再構築し,地域活性化につなげることを目的としている。

情報ステーションは,5年間の実績から「在庫管理・選書システム」を作り上げ,寄贈された本を全館で共有し,それぞれ必要な館に配分することができ,各図書館の蔵書をそれぞれの地域の利用者に合ったものにしている22)

(4)アカデミーヒルズライブラリー23)

2003年,六本木ヒルズ開業とともに誕生したアカデミーヒルズ六本木ライブラリーは, 24時間オープンの「会員制図書館」として注目された。このライブラリーでは,ナレッジマネジメントを実現するライブラリーをコンセプトに,場の利用,利用者同士のコミュニティづくりを重視している。資料はほとんど重視されず,貸出は行わず,分類や整理もされていない24)。ライブラリーと名乗ってはいるが,むしろ共有書斎といった趣のもので,その活動はいわゆる会員制図書館(Social Library;Subscription Library)iiとは似て非なるものである。

現在では,会員が主に東京都心での勉学や仕事のスペースとして利用しており,アークヒルズ(赤坂)にも開館し,事業として一定の軌道に乗っている。一方で,「施設の大きさから生まれてくる効率的な運用を目指したシステム化や組織化,マニュアル化が進む中で,利用者と運営者の距離が離れ,お互いの顔が見えなくなった」25)と磯井はこれについて語っている。

(5)「まちライブラリー26)

磯井は,アカデミーヒルズでの反省から,「個人の立場で立ち上げられる図書館で,人々が気楽に,楽しく交流できる,本を絡めた活動ができないか」25)という思いから,2011年に大阪で「まちライブラリー」を始めた。「まちライブラリー」は,メッセージを付けた本を寄贈しあい,それを交換する中で,さらにメッセージを返し,本を通じて人と出会うことに主眼をおいた活動である。利用者が本を寄贈し合うことから,蔵書はゼロからでも始められることが特徴である。

1.3 現在までの歩み

「マイクロ・ライブラリー」の活動は,19世紀に成立した近代公共図書館の原則的な要件(公的資金の支出,すべての住民の利用,利用が無料)を満たすものではない。しかしその活動は,限定的ではあるが公共的な空間に存在し,人々の読書機会の確保や,つながりの創出,あるいはコミュニティの形成に資するものとなっている。近年,文庫活動が家庭文庫に回帰しているように,組織から個人へと,この種の活動の規模が次第に小さくなっており,交流性を尊重する社会的風潮が強くなっているといえよう。

しかし,1.1や1.2で示した活動のきっかけとなったものは,芸術的な活動の一環であったり,故人の蔵書を活用したいという思いだったり,文庫活動や情報ステーションのように,もともとは公共図書館の整備を補完する目的であったりとさまざまだ。運営していく中で,公的な図書館に受容されずに残るさまざまな魅力を実感し,それらを目的としていくようになったと考えられる。近年の「マイクロ・ライブラリー」だけをとりあげて,狭く定義するよりは,今後の展開を想定してオープンなものとしておく方がよさそうだ。

運営面でみると,これらの小さな図書館において問題となるのが,蔵書の整備やそれを管理するシステムなどの費用をどのように捻出するかである。情報ステーションがその技術力で独自のシステムを作り上げたことや,2012年には「リブライズ27)(バーコードリーダーとFacebookのアカウントがあれば,無料で自分の蔵書をインターネット上に公開して,個人のルールに応じた貸出運用ができるWebサービス)28)のような機能がリリースされたことから,かなり気軽に図書館サービスが始められるようになった。今後も,技術の進展やオープンソースの普及,さらにさまざまな連携によって,改善されていくだろう。

また,「場」を重視する図書館の登場など,本のある空間の捉え方の多様化が進んだことや,BookCrossingなどのWeb上の取り組みが世界中に広まり,読書体験の共有によって交流が生まれやすくなることが広く認知されるようになった。こうした進展が,近年のマイクロ・ライブラリーの発展の追い風となっている。

2.マイクロ・ライブラリーをマッピングする

このような多様なマイクロ・ライブラリーの全体を鳥瞰するために,得られているデータに基づき,そのマッピングを試みる。

まず,マイクロ・ライブラリーの一つの特徴はそこに集う人々の「交流」という要素である。そのことから,交流性を主要な尺度としてみる。縦軸は交流性の程度を示しており,上に行くほど高くなる。横軸は提供するサービスの「排除性」である。排除性とは,一般に対価を支払わない者を排除できるかどうかの度合いである(サービスの利用を排除しにくい場合は,そのサービスは公共財と定義され,全ての人がその費用を負担すべきものとなるし,排除性を高くしても利用が落ちず採算がとれれば,私的財として民間に委ねることができる)。各マイクロ・ライブラリーでは,サービスの基本方針によって,可能な範囲で広く公開するケースは排除性を低く設定し,特定のグループだけに限定する場合は高くして運用している。

図書館の活動は元来一種の資料・情報の共有経済である。しかしサービスの多様化の進展とともに,さまざまな種類の便宜が顕示的に共有されるようになっている。マイクロ・ライブラリーには,資料だけでなくいくつかの共有すべき対象が見つけられる。人々の共有したい思い(「価値観」),「資料」,公共図書館やまちづくり団体による「コミュニティ意識」,読書環境やコワーキングスペースのような「場」などである。それらを交流性と排除性の空間に位置づけ,以上の4つを共有されるサービスのベクトルと設定する。

一般に排除性が高いほど,共有者は減じメンバー間の交流性は密になると考えられ,共有ベクトルはすべて右肩上がりになると想定する。その上で,各共有ベクトルの相対的位置を確認すると,まず「価値観」や「資料」を重視するライブラリーでは,参加者同士の共感が得られやすいことから交流性はより高いといえる。価値観のようなアイデアには,構成するメンバー間では排除性はほとんどみられない。一方資料には排除性はあるが,時間をずらすなどの運用をしてそれを減じている。「コミュニティ意識」や「場」といったものは,交流性が高いようにみえる。しかし,「コミュニティ意識」についていえば,可視化できるもの(具体的には地域の祭りなどのイベント)がなければ希薄になりやすく,常に交流性を高く保てるものでもない。資料などの具体的な対象物のほうが安定的だろう。また,「場」といった物理空間は,交流性を高める不可欠な仕掛けだが,なんらかの働きかけ,共通する目標などがない場合,それだけで交流性が高められるわけではない。また場の物理的な排除性は明確である。

これらの点を踏まえて,図1のようなマッピングを行った。なお,基本的にそれぞれの図書館は,主要な共有のベクトルに沿ったデザインとしての位置づけである。いくつかのベクトルに関連しているものもあり,完璧な描写ではない。また,多様な活動を展開するマイクロ・ライブラリーの場合,交流性や排他性の度合いの比較は難しい。

図1 マイクロ・ライブラリーのマッピング

まとめ

わが国では二つの大震災以降,新興住宅地や新築マンションにおいて,防災などの面からコミュニティの大切さが特に注目されている。冒頭に述べたように,最近マンションの共用施設として増えているのが「ライブラリー」だ。当初の設置費が安いわりに,利用者が多い施設として人気が出ている。書店29)等と提携し選書された蔵書を置いているマンションもある。マンションラボ(マンションのより良い暮らしにつながる情報を独自の視点で紹介するWEBサイト)では,「マンションに図書館を作ろう!プロジェクト30)に取り組んでおり,まちライブラリーやリブライズもこのプロジェクトに参加している。情報ステーションにおいては,マンション内ライブラリーを業務提携型で運営している実績があり,ライブラリー設置に関わる料金表なども提示されている。情報ステーションのアドバイザーを務める地域再生プランナーの久繁哲之介は,「図書館を中核施設と位置付けた,まちづくりや開発事業は今後かなり増える」22)としており,民営の小規模な図書館と,公営の大規模な図書館を,予算や立地等の制約により,連携的に使い分けることを提案している。

他方,アメリカのUrban Librarians Uniteは,ハリケーンの被害のあった地域にMini Libraryという小さな図書館を設置するにあたって発行した記事31)において,図書館には専門的な知識を持った図書館員が不可欠であることを強調している。また,嶋田学は,「住民の自発的な図書館づくりをどう捉えるかについては無関心ではいられない。こうした動きが,自治体の図書館整備をより後退させる免罪符になりかねない」32)と述べ,マイクロ・ライブラリーが公立図書館,図書館員の価値が揺らぐ脅威となる可能性があるという。

嶋田らの見方は,図書館サービスのあり方の本質に関わるところがあり,十分に検討しておかねばならない。しかし,人々の草の根の要求として,マイクロ・ライブラリーのような動きは必ずや発生するのであって,公共図書館かマイクロ・ライブラリーかの選択という単純な問題ではない。一旦マイクロ・ライブラリーのようなものが社会的な意味をもつようになったとき,民と公とはそれぞれの役割を確認し,どこに価値を置いて展開していくかを協働して検討することが必要なのであろう。

公共図書館という制度は,未だ 1世紀余りの歴史しかない。われわれに求めるサービス機能はどのようなものなのか,情報化時代にあって,どのような共有資源を必要としているかなど検討しなくてはならない。関係者がそれぞれ主体性を保ちつつ協力していくことがこれからの地域,社会の発展につながるであろう。

2017-07-21 木村 瞳



【注】

i この活動では,公共交通機関の中に本を残していくことをbook dropsと呼んでいる。book fairiesと呼ばれるボランティアは,本をドロップし,SNSで発信する。実際に本を手に取った人は読後に,またそれを戻すか,別の場所に残すかして同じことを繰り返していく。ブッククラブなども組織されていて,交流を生み出している。

ii ヨーロッパや米国で18世紀に生まれ,近代公共図書館の先駆的存在となり,かつ現在でも活動を続けている有料の図書館である。利用者が何らかの形で図書館の運営費を負担することにより維持される図書館で,ブッククラブと呼ばれるクラブ組織や,会員組織で恒久的な蔵書を持つ非営利の図書館など,人々が自発的に設立運営する図書館のこと。

【引用文献】

1 牧野雄二.動向レポート Vol.1:公共図書館の動向を新聞記事見出しに探る(1).“http://www.miraitosyokan.jp/future_lib/trend_report/vol1/”,(参照2017/6/23).

2 磯井純充.新時代におけるマイクロ・ライブラリー考察.カレントアウェアネス,2014,No.319,CA1812,p.2-6.

3 吉田右子.1960年代から1970年代の子ども文庫運動の再検討.日本図書館情報学会誌.2004,Vol.50,no.3, p.103-111.

4 Open Book Case.“https://openbookcase.org/”,(参照2017/5/30).

5 Christian Kahle.Die Offene Bibliothek von Clegg & Guttmann.“http://libreas.eu/ausgabe26/05kahle/”,(参照2017/6/23).

6 Bürgerstiftung Bonn.Buecherschrankgeschichten-Buergerstiftung_Bonn.pdf.“http://www.buergerstiftung-bonn.de/fileadmin/bue-2016-template/downloads/pdf/Buecherschrankgeschichten-Buergerstiftung_Bonn.pdf“,(参照2017/6/23).

7 Londonist.The Story Of London's Smallest Library.”http://londonist.com/2016/05/the-story-of-london-s-smallest-library”,(参照2017/6/23).

8 Little Free Library.“https://littlefreelibrary.org/”,(参照2017/5/30).

9 カレントアウェアネスポータル.庭先の本棚“Little Free Library”,世界へ,そして日本へ. No.266,2014.“http://current.ndl.go.jp/e1603”,(参照2016/6/23).

10 The Uni Project.“https://www.theuniproject.org/”,(参照2017/6/23).

11 Street lab.“http://www.bostonstreetlab.org”,(参照2017/6/23).

12 BookCrossing. “https://www.bookcrossing.com/”,(参照2017/6/23).

13 Books on the Move.“http://www.booksonthemoveglobal.com/”,(参照2017/6/23).

14 Books on the Underground."http://booksontheunderground.co.uk/",(参照2017/6/23).

15 PUBLIC LIBRARIES ONLINE.Turning Public Transportation into Mobile Libraries.“http://publiclibrariesonline.org/2017/05/turning-public-transportation-into-mobile-libraries”,(参照2017/6/23).

16 清水正三.私の文庫観.季刊子どもの本棚.1976,no.19,p.146-149.

17 Heartsill Young編,丸山昭二郎, 高鷲忠美, 坂本博監訳.ALA図書館情報学辞典.丸善,1988.

18 全国子ども文庫調査実行委員会編.子どもの豊かさを求めて3:全国子ども文庫調査報告書.日本図書館協会,1995,118p.

19 汐崎順子.日本の文庫:運営の現状と運営者の意識.Library and information science. 2013,No.70,p.25-54.

20 NPO法人情報ステーション."http://www.infosta.org/",(参照2016/6/23).

21 岡直樹.小規模分散型図書館で地域の持続的発展を.専門図書館,2015,No.272,p.9-15.

22 久繁哲之介.まちづくりに,図書館が果たす役割を,シェアリング・エコノミーから考える~図書館で,まちを創る「NPO情報ステーション」を事例に(1)~.Urban Study,2016,Vol.63,p.83-107.

23 アカデミーヒルズ.会員制ライブラリーアカデミーヒルズ.“http://www.academyhills.com/library/index.html”,(参照2017/6/23).

24 小林麻実.図書館はコミュニティ創出の「場」:会員制ライブラリーの挑戦.勉誠出版,2009,p.6.

25 磯井純充.まちライブラリー活動を通して見えてくるマイクロ・ライブラリー(小さな私設図書館)の現況と展望.専門図書館,2015,No.272,p.2-8.

26 まちライブラリー.“http://machi-library.org/”,(参照2017/6/23).

27 リブライズ.リブライズ~すべての本棚を図書館に~.“https://librize.com/ja”,(参照2017/6/23).

28 河村奨.すべての本棚を図書館に:カフェから生まれたリブライズ.専門図書館,2015,No.272,p.24-31.

29 青山ブックセンター.ブックコンサルティング.“http://www.aoyamabc.jp/bookconsulting/”,(参照2017/6/23).

30 マンションラボ.マンションに図書館を作ろう!プロジェクト.“http://www.mlab.ne.jp/category/lab/report07/”,(参照2017/6/23).

31 Urban Librarians Unite.The Mini Libraries.“http://urbanlibrariansunite.org/2013/02/08/the-mini-libraries/”,(参照2017/6/23).

32 嶋田学.これからの50年を見据えた図書館づくり:21世紀の中小レポートの実現に向けて.図書館界,2014,Vol.66,No.1,p.32.

【参考資料】

33 アレックス・ジョンソン.世界の不思議な図書館.創元社,2016.

34 Bonner Gemeinschaftsmöbel.“https://www.uni-bonn.de/die-universitaet/publikationen/forsch/archiv/forsch-2-april-2009/lernen_und_lehren.pdf”,(参照2017/6/23).

35 The Book Booth: America's Littlest Library,Facebookページ情報.“https://www.facebook.com/pg/TheBookBooth/about/?ref=page_internal“,(参照2017/6/23).

36 HuffPost .The Book Booth, America's Smallest Library, Opens For Business.“http://www.huffingtonpost.com/2011/09/12/smallest-library-america_n_959211.html”,(参照/2017/6/23).

37 小林麻実.アカデミーヒルズ六本木ライブラリーのアイデンティティ.情報の科学と技術,2006,56巻2号,p.52-57.

38 磯井純充.発表3:本で人とつながる,まちライブラリーの取り組み.図書館界,2014,Vol.66,No.2,p.107-113.

39 磯井純充ほか.マイクロ・ライブラリー:人とまちをつなぐ小さな図書館.学芸出版社,2015.

40 磯井純充ほか.コミュニティとマイクロ・ライブラリー.一般社団法人まちライブラリー,2016.

41 磯井純充.まちライブラリーのつくりかた:本で人をつなぐ.学芸出版社,2015.

42 伊東千晶,井上朝雄.マイクロ・ライブラリーによる地域活性化に関する研究.日本建築学会九州支部研究報告,2015,54号,p.245-248.

43 永田治樹.公共図書館とコミュニティ:知識・情報伝達と人びとをつなぐ.情報の科学と技術,2014,64巻10号,p.393.

44 猪谷千香.つながる図書館.筑摩書房,2014.

45 日本図書館情報学会用語辞典編集委員会.図書館情報学用語辞典.第4版,丸善,2013.