Library Compass 第7回
電子リソースを利用者・図書館が選択できる環境

永田 治樹

昨年長野県の「デジとしょ信州」という広域導入もあり,電子書籍サービスを展開している国内公共図書館数が三分の一を超えた1。ただ,そのサービス状況をみると一部の資料が電子書籍で使えるといった程度である2。国内出版社のコンテンツの供給状況,費用を要するサービス態勢整備や所蔵資料のデジタル化,またオープンな領域のコンテンツを利用につなぐポータル設定など,課題は多く,電子リソースのサービスがなかなか進展しない。だが,人々がパソコンやスマホで読書を楽しみ,調べものをしているデジタル時代にサービスがこのままというわけにはいくまい。図書館には,紙・印刷資料と同じように,電子リソースについても利用者にアクセスすることを保障する責務がある。

コロナ禍をきっかけに館外からの電子リソースのリモートサービスが急速に増大している。この状況でリモートアクセスの利用性向上が意識されるようになった。リモートサービスでは,ログイン(認証)というステップが必要となるが,いくつかのサービスをわたって利用するのに,サービスごとにいちいちログインせずにそれを一度で済ます方式(シングル・サインオン(SSO))ならば勝手がよい。しかし,これがうまくいったとしても,図書館が電子リソースへの十分なアクセスを提供していないという基本問題は別である。

所要経費や上述のコンテンツの供給状況など問題は種々あるが,国内の電子書籍に関してわが国の図書館の多くが出版社からのコンテンツを委ねられたプロバイダーと契約を交わし,その契約が1社のみで複数の契約が少ないことも気になる。このことが,図書館がその枠でしかコンテンツを入手できず,資料収集のプロセスを自ら狭めているという結果をもたらしているように思えるからである。

この制約は,図書館側だけではなく,コンテンツを提供する出版社側をも拘束する。当該プロバイダーを経由しなければ,そのコンテンツを図書館に配給できない(今ではほとんどの出版はデジタルで準備されているから,環境さえ整えば,中小出版社もコンテンツを適宜提供できる)。本来,出版社から図書館へは,供給が拡大しうる,制約のない流通態勢が望ましい。ネット社会はそうした取次コストを最小化できるはずだ。

そこでこの現状をどのように打開するかだが,実はその解答は技術的にはすでに出ている。電子コンテンツを提供してくれる出版社(コンテンツ・アグリゲータやその他情報提供機関を含む。それらを「サービスプロバイダー(SP)」という)と,ユーザー(図書館やその利用者)とを結びつける技術である。2002年に策定されたSAML(Security Assertion Markup Language)3という規格に基づけば,サービスプロバイダーが自由に参入し,他方ユーザーを識別・認証するアイデンティティプロバイダー(IdP)を通じて,利用者までフェデレーション(連携認証)を展開することができる。シングル・サインオンも確保されている。

図「SAMLシングル・サインオンの過程」は,複数のサービスをわたりユーザー認証を行うフェデレーション(連携認証)の概念図である。利用者が自分の図書館が契約している出版社のコンテンツを利用したいとして,それに要求を出すと,それ以降自動的に利用者の確認をし,アクセスが承認されるステップがたどられる。

図 SAMLシングル・サインオンの過程

このようなフェデレーションはすでに世界中で展開されており,国内でも国立情報学研究所の「学認」というフェデレーションが2010年度から運用を始めている4。さらに,それぞれのフェデレーションを取りまとめたもの(eduGAIN5)もある。しかしながら,公共図書館や比較的小規模の大学図書館,そしてコンテンツを提供する中小出版社にとって,学認への参加はそれぞれアイデンティティプロバイダーまたはサービスプロバイダーとしての求められる準備6,機器導入やシステム維持は負担かもしれない。

そこで,その代替策(場合によっては併用案)を紹介しようと,英国のJISC(もとは政府のエージェント,現在はNPO)のプロダクトであるOpenAthensのサービスをとりあげ,オープン・レクチャー「電子リソースの活用とリモートサービス」(EBSCO Japan社との共催)を行った7。OpenAthensの特長は学認などと同じくSAML認証だが,クラウドベースの柔軟なサービスであるため手軽に利用できる。さらにまたIPやプロキシー認証なども許容しているほか,各図書館には,各コンテンツの利用状況など出版社等に照会せずとも,経営上必要な情報が即座に取り出せるという特長もある。

達成したいことは,紙・印刷資料の流通過程がそうであったように,図書館が自由に資料を調達できる体制と,また利用者の使い勝手のよいサービスインタフェースである。各図書館は言い分を主張し,新たな工夫に挑んでほしい。

OpenAthensは,国内で利用できる。関心のある方は,こちらのリンク(YouTube)からオープン・レクチャーの模様を視聴できるのでご覧いただきたい(2023年3月までのアーカイブ配信予定)。



<注・参考文献>

1.電子出版制作・流通協議会. 電子図書館(電子書籍サービス)実施図書館(2022年10月01日). https://aebs.or.jp/Electronic_library_introduction_record.html (参照2022-12-17)

2. 間部豊. 公立図書館における電子図書館サービスの質的調査とその分析・考察. https://www.nal-lib.jp/wordpress/wp-content/uploads/2022/03/mabe.pdf (参照2022-12-17)

3. Wikipedia. Security Assertion Markup Language. https://en.wikipedia.org/wiki/Security_Assertion_Markup_Language (参照2022-12-17)

4.「学術認証フェデレーションとは,学術e-リソースを利用する大学,学術e-リソースを提供する機関・出版社等から構成された連合体」。大学図書館や比較的規模の大きな出版社等が参加している。

5. 林豊, 相沢啓文. 学認+eduGAINでリモートアクセスの選択肢が広がる.カレントアウェアネス-E. 2021.11.25, (425), E2447. https://current.ndl.go.jp/e2447 (参照2022-12-17)

6. 例えば学認の「技術ガイド」 https://www.gakunin.jp/technical (参照2022-12-17)

7. OpenAthens. https://www.openathens.net (参照2022-12-17)
 EBSCO & OpenAthens. https://www.ebsco.com/ja-jp/products/ebsco-openathens (参照2022-12-17)