Library Compass 第4回
図書館の連携

■公共図書館の連携状況

文部科学省の「図書館実践事例集~地域の要望や社会の要請に応えるために~」(令和2年3月)1には,都道府県から推薦のあった公共図書館の活動事例127件が掲載されている。「利活用の推進・多様なサービス」「運営」「環境整備」「その他」の順に一覧できる。中身をみると,「運営」ではほぼ連携を中心に進められた活動で,その他の区分でも連携を前提にしたものが少なくない。公共図書館ではこれまで,大学図書館などと比べ連携数が少なかったが,昨今このように連携活動のオン・パレードとなっている。

連携とは,類似のニーズを抱えたもの同士が協力し合う行動で,コンソーシアムとかネットワークを構成する場合や協議の場だけの拘束性の緩い結びつきの場合がある。いずれも,自組織だけで対応するよりもサービスの効果が大となり,コスト的にも優越するときに選択される。いわば「組織と市場との中間に位置するもの」2(市場というのは,常に調達でまかなえるということ)である。従来にない課題が出現し,それを組織内でこなす力量が備わっていないとき,連携を選択せざるを得ない状況になっているといってよい。

わが国の公共図書館1館あたりの資料費は1990年代から逓減し,受入資料の減少が始まった。それを追って2010年以降,貸出件数なども下降基調になっている。現状では図書館に振り向けられる予算の見通しは好転しそうにはない。他方,社会の情報化の進展により,デジタル情報は爆発的に急増している。財源が削られるのに,図書館が担うサービス範囲は拡大している現状は上の状況だろう。大きな予算削減があれば,図書館という施設そのものの維持も困難になるし,それほどではなくても予算削減が進行するなか,情報資源をどのように確保するか,急速なデジタル資料への転換(電子書籍,データベース,ネットワーク情報資源)にどのように対処するかなど,難しい課題が並んでいる。

もう一つある。社会変化に伴い公共図書館に期待される役割の変化である。図書館は,人々の市民性(よりよい社会の実現のために,まわりの人と積極的に関わる意欲や必要な行動力)を培うため,リテラシーを涵養し,健全な判断に必要な知識・情報を提供する施設であった。現在でもこの使命は変わらないが,人々の学習方法,生活様式,地域社会のあり方が変容するなかで,地域の人々のサードプレイス,仕事や学習に使える共同スペース,人々の切実な要求に応えるプログラム実施など,これまでと違った図書館サービスが期待されている。実際,挙げられた連携事例は,この面での展開が多いようである。

■新たな変化に対応するための生命線

わが国の市域の平均人口(134,361人3)に相当する人口段階(10万以上15万人未満)の公共図書館を『日本の図書館 2021』でみると,このランクの図書館組織数は全国に104ほどあり,その資料費予算額が平均約2722万円,受入図書購入冊数が平均約1万3470冊,蔵書冊数が平均約47万冊となる4。このような与件で,これらの図書館が自組織だけで利用者に必要なサービスを実現できるだろうか。さらにいえば,図書館を設置する市区町村は全国で,1345存在するが,この人口10万人以上15万人未満のランク以上の図書館(組織数)は全体の2割強程度しかない。あとの8割はもっと規模が小さい状況である。

資料費がこの程度であれば,利用者の要求を満たすには資料の相互貸借などを活用し,提供分野を分担したりするしかないだろう。また,懸案のデジタル資料についての見通しはなく,なんらかの方法でコレクションの確保を考慮しなければならない。(地域の写真を収集している「北摂アーカイブス」5の市民との連携は,情報資源をどう確保するかという点と,デジタル資料を扱うという面で,今後のあり方を示唆している。)

これまで,IT関連のシステムに関してわが国の公共図書館は大きく立ち遅れてきた。電子書籍の導入は進まず,コロナ禍でようやく普及し始めたところである。このような新しい仕事に図書館が取り組むときは,諸外国の例からみると図書館間の連携が不可欠である。平均規模の公共図書館が個別に対応することは,きわめて難しい。アイデアや費用を共同で出し合う「連携による協力ネットワークが生命線」6となるだろう。

■価値ある図書館連携のための方程式

50年の歴史をもつミネソタ州の図書館共同組織Minitexの前所長ヴァレリー・ホートンが,連携に際しては次のような観点をおさえておく必要があると指摘している。①構想を明確・簡潔に述べているか,②なにが達成できれば,構想が実現したことになるか,③自分のチームの専門知識・スキルはなにか,④どのような専門知識・スキルを習得しようとするか,⑤意思決定を共同できるか,⑥誰がどのレベルで決定権を持つか,⑦貢献は公平に評価されるか,⑧解決戦略は予め決めてあるか,⑨進捗をどのように測定するか,⑩成果はどのように評価するか,⑪成功だという判断基準は明確か,である。また,それとともに連携が,価値があるかどうかを判断するために使える次の方程式を提案している7

共同プロジェクトの価値=

(効率,サービス,資源の得られたもの)+(改善できない部分の費用)-(プロジェクトのせいで低下した生産性)

これらの示唆は参考になる。(永田治樹)



【参考資料】

1 文部科学省(2021).図書館実践事例集~地域の要望や社会の要請に応えるために~.“https://www.mext.go.jp/a_menu/shougai/tosho/mext_01041.html”,(accessed 2022-04-05).

2 永田治樹(1997).「ライブラリーコンソーシアムの歴史と現状」『情報の科学と技術』47(11),p.566-573.“https://www.jstage.jst.go.jp/article/jkg/47/11/47_KJ00002307141/_pdf/-char/ja”,(accessed 2022-04-05).

3 総務省(2021).住民基本台帳に基づく人口,人口動態及び世帯数(令和3年1月1日現在),“https://www.soumu.go.jp/main_content/000762454.pdf”,(accessed 2022-04-05).

4 日本図書館協会図書館調査事業委員会日本の図書館調査委員会編.『日本の図書館 統計と名簿 2021』日本図書館協会,2022,p.26-27.

5 地域情報アーカイブ化事業実行委員会.北摂アーカイブス.“https://hokusetsu-archives.jp/cms/”,(accessed2022-04-05).

6 Michael E.Casey and Charles Pace(2018).Innovation Revolution at Gwinnett County Library.Public Library Online,November 8,2018.“http://publiclibrariesonline.org/2018/11/innovation-revolution-at-gwinnett-county-library/”,(accessed 2022-04-05).

7 Valerie Horton(2021). The Necessity of Collaboration.American Libraries,no.1,2021.“https://americanlibrariesmagazine.org/2021/11/01/the-necessity-of-collaboration/”,(accessed 2022-04-05).