Library Compass 第14回
美麗島(台湾)の公共図書館

永田 治樹

16世紀のポルトガル人がこの島を「Formosa(美麗島)」と呼んだ。台湾は自然豊かで美しい。今では一人当たりのGDPは日本より一つ上に位置する,自由が保障された裕福な国である。その公共図書館に関しては,2024年の『臺灣閱讀風貌及全民閱讀力年度報告』に「来館者数は延べ1億3151万人に達し,前年比21.35%増で,一人当たり平均5.40回来館したことになる」。また「図書の貸出総冊数は1億4694万冊を超え,15.49%増で一人当たり平均6.10冊の貸出で(中略),さらに電子書籍の貸出は [1980万冊を突破し],前年に比べ成長率は99.80%だった」1とある。

以前から台湾の図書館でのDX化やスマート化は伝聞していた。それがどのようなものか,そして公共図書館の様子を確かめてみたいと,この4月に二つの国立図書館と三つの公共図書館を訪問した。延べ9日間の調査でしかなくいくぶん心もとないが,この取材旅行で強く印象づけられた点を記してみる。

<訪問図書館の写真>
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※それぞれの写真をクリックすると拡大します
  • 写真1 どこの中央図書館もゆったりとしたスペース:台南市立図書館高齢者エリア(奥)と隣接した雑誌・新聞エリア
  • 写真2 子どもたちの目が輝いているブックトーク:台南市立図書館児童のエリア
  • 写真3 利用できるおもちゃの展示:桃園市立図書館児童エリア
  • 写真4 高雄駅にあった智慧図書館(高雄市立図書館)
  • 写真5 親子のコーナー:高雄市立図書館児童エリア
  • 写真6 スマホ借出しアプリのダウンロードのお薦め:台南市立図書館
  • 写真7 国家図書館のオープンラボの入口
  • 写真8 さまざまな機能が用意されている:オープンラボの標示
  • 写真9 AI智慧館員;国立公共情報図書館



◆人々と公共図書館の近接性

訪問したのは,桃園,台南,高雄とすべて「直轄市」(人口125万人以上の都市圏で現在6市)の公共図書館2である。表に示すように,人口規模でいえば,日本の政令指定都市に匹敵しよう。桃園市は名古屋市,台南市は札幌市,高雄市は大阪市くらいだ。ただし面積は最小の桃園市を含めかなり大きい。まずは,人口比での図書館数の多さと中央館の大きさに注目してほしい。人々と図書館との隔たりは,われわれのものより小さい。また,移動図書館車も配置されている。高雄市には17台もある3

表 3市の図書館
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さらに人々との近接性を高めるいくつかの方策がある。一つは,コンビニへの配送サービスで,所望の資料を近くのコンビニまで届けてもらえる。この種のサービスは日本でも行われているが,台北市が1万店と契約したように4,ここではもっと広範囲に浸透している。台南の楊館長によればコンビニへの配送によって,隔地の人々へのサービスが展開できているという。

また,台湾では24時間自動貸出返却機も見慣れた光景である。図書館に設置されることもあるが,駅や空港,スーパーなどに機器を置き,資料を受け取ったり,図書館が見繕った資料を選んだりもできる(「智慧圖書館(Intelligent Library)」5)。

館内にももちろん自動貸出機はある。それよりも簡便なのは,スマホによる貸出アプリの利用だ。自分のスマホで,資料のコードを読めば手続きは完了,BDS(Book Detection System)解除もできているから,誰も煩わせず簡単に資料が借り出せる。上述のコンビニ配送についてもアプリが活躍している。スマホで本を検索して,配送の依頼まで行える6

以上に加えて,電子資料サービスは図書館の近接性や利便性を確実に高める手段となる。電子書籍には,図書館が権利を永久に保有できるものと出版社のプラットフォームで利用量ベースの契約によって利用する二つのタイプがあるようで,比較的電子書籍が少ないという台南市立図書館では,前者が約1万1000冊であるが,後者については昨年度約25万8000冊貸出されたという7。台南の電子書籍サイトにはそのほか国立図書館やプロジェクトグーテンベルグのものを含め10のサービスが挙げられている。加えてデータベースなどのサービスもあり,電子資料サービスは充実している。

図書館の近接性を向上させる,利用者の都合を考慮したこれらのサービスは,われわれのものよりもずっと心地が良い。

◆人々に寄り添う工夫

訪問した三つの公共図書館(中央館)はすべて2012年以降に新築したもので,評判を取った建築である。美しいデザインやアメニティの良さは無論だが,サービス空間の構成にはとても感心させられた。

閲覧スペースはもとより,児童,ヤングアダルト,高齢者といった世代別エリアや,障害者のエリア,コンピュータそしてAVメディアを備えたスペース,メーカースペースとグループ学習や展示・イベントのスペース,レクチャーシアターなど,人々にとって満足ゆくものになっている。印象に残ったのは,児童サービスのエリア設定である。表にあるように延床面積が大きく一つのフロアがこれにあてられる。台南では,絵本,児童文学,画像別児童書,外国語児童書,視聴覚コーナー,ポップアップブック,読み聞かせコーナー,五感探究ゾーン(話す・歌う・読む・書く・遊ぶによって早期の読書リテラシーを養う)と八つもの用途ごとに設えられていた。桃園はおもちゃセットの貸出や動きにつれて動くインタラクティブな画面遊びなどで楽しめる場所を演出している。高雄の幅広い児童コレクションも目を引いた。

また,高齢者のためのエリアには新聞や雑誌を近くに配置してある。桃園では障害者エリアを隣接させ,高齢者同士のコミュニケーションを促すブレティンボードのような工夫もある。それに,ヤングアダルトのエリアは資料やゲームにとどめず,ここにメーカースペースを置いている。この世代の発達をねらったアイデアである。

各館,ハードウェアやソフトウェアも十分に取りそろえられている。そして,座席や機器の予約機は各館のエントランスの付近に配置されている。共用施設をうまく使ってもらうには不可欠だろう。

サービス空間を設定するとき,どのように人々が使うかを熟慮する。とはいえ,人々の要求は多様化し移り変わりも早い。時代の変化に合わせるのは容易ではないが,これらの図書館には,人々に寄り添う丁寧な工夫が施されていた。

◆国立図書館の後押し

今回台湾の公共図書館の目覚ましい進展を目にした。もちろん,各図書館はそれぞれ問題を抱えるが,果敢にことに挑んでいる。それに,国立図書館の活動がこれを後押ししている。一つは国家図書館のオープンラボ8だ。2022年に始めた「探索・体験・学習・インスピレーション・創造」をコンセプトとするマルチクリエイティブスペースで,入館に年齢制限(16歳以上)のある国立図書館が,ここでは6歳以上を認める画期的な措置をとって,新たなサービスモデルを実証している9

また,公共図書館を指導することを第一の任務とする台中の国立公共情報図書館は,全国的なデジタルリソースのクラウドセンターとして機能するとともに,AIなどスマート技術を導入した図書館のあり方を推進している。その実験的な施設が若者たちの人気を呼んでいる。

末尾になったが,お世話になった各図書館の方々,行く先々支援してくれたEBSCOの公丕儉さんとその仲間への謝意を記しておきたい。



【注・参考文献】(URLの参照日はすべて2025-05-05)

1.國家圖書館『113年臺灣閱讀風貌及全民閱讀力年度報告』2025, p12.https://nclfile.ncl.edu.tw/files/202504/f4dc0de0-1425-4dd2-b462-6c25f5155848.pdf

2.桃園:https://www.typl.gov.tw/ja/About/Introduce
台南:https://www.tnpl.tn.edu.tw/u5418428796382949586/a1
高雄:https://www.ksml.edu.tw/sitemap/SubMenu.aspx?Parser=99,3,0

3.6台は通常のもの,11台はこの図書館が2017年行政法人化した後に民間の寄付で取りそろえられたもので「モーバイル読書車」という。.

4.「台北市立図書館、台湾内のコンビニエンスストア約1万店舗での本の受取・返却サービスを開始」『カレントアウェアネス-R』2016.10.20. https://current.ndl.go.jp/car/32763

5.酒井貴美子「ただいま増殖中,台湾の知恵図書館」『カレントアウェアネス-E』No.226, 2012.11.15.https://current.ndl.go.jp/e1357

6.アプリは,https://www.tnpl.tn.edu.tw/U5204355698242154271/A1
手順は,https://www.tnpl.tn.edu.tw/u5664675133067420077/a1

7.台南市立図書館の電子コレクションサイト
ベンダーとプロジェクトごとのもの:https://tnml.ebook.hyread.com.tw/?webpacLang=ja_JP.全体:https://www.tnpl.tn.edu.tw/u4644318637373758255/s1.

8.國家圖書館, Open Lab.“https://open.ncl.edu.tw/en/

9. アメリカ図書館協会の2023 International Innovatorsとして表彰された。https://americanlibrariesmagazine.org/2023/07/19/2023-international-innovators/