Library Compass 第10回
データと図書館経営

戸田 あきら

2008年に図書館法が改正され「図書館は,当該図書館の運営の状況について評価を行うとともに,その結果に基づき図書館の運営の改善を図るために必要な措置を講ずるよう努めなければならない。」(第七条の三)とされてからすでに15年が経過した。図書館のマーケティングという言葉が使われるようになってからもだいぶ時間がたつ。自館の顧客のニーズを把握しそのニーズに合ったサービスを提供しようという考え方である。

評価とマーケティング,この二つに共通するのがデータの重要性である。図書館の取組やその実績に関するデータ,地域やそこで生活する人々に関するデータなしに,評価もマーケティングも成立しえない。が,日本の図書館の現状は,といえば,以前に比べはるかに前進したとはいえ,まだ日々の取組の中で十分にデータを活用しているとはいえない状況だろう。

米国の公共図書館協会(Public Library Association:PLA)の機関誌である“Public Libraries”の2023年11‐12月号(Vol.62, No.6)の特集テーマは,「図書館データ」である。現場の図書館からのどのようにデータを活用しているかを示す記事が掲載されている。これらの記事を通じて,現在のアメリカの公共図書館が,どのように日々の活動の中でデータを活用しているかを見た。


◆さまざまな判断を支えるデータ

現場からのレポートの一つがコロラド州アラパホ図書館からの報告である。彼らは,意思決定や判断のためにどのようなデータを使ったのか。

表1 取組とそれに使用したデータ(主なもの) 

「サマーリーディングプログラム実施方法の改善」は,調査結果に基づき,読書履歴の記録(たくさん読んだ参加者を表彰するため)をやめ,また,サマーリーディングのために配布する本の数を1600冊から16000冊に増やした,とある。また,「新しい図書館施設の検討」は,建物を増設するにあたりどのような施設が必要かを検討したという取組である。データから地域の23%の住民が家庭では英語以外を使っており,うち37%は「英語が上手くない」こと,6%の家庭が車を持っていないなどの事実が明らかになり,それらの状況に対応する教育的社会的プログラムのための施設の提案がまとめられた。今後,評議員会(Board of Trustee)との予算に関するやりとりが予定されている。

新しい事業や大きな取組の企画だけでなく,日常的な業務改善にもデータが活用されている。例えば,「書架戻しのための所要時間の短縮」は,返却作業フローを確認しそれぞれのステップの所要時間を測定,そのプロセス及び時間の短縮を追求した結果,平均50時間から30時間以下に短縮させることに成功したという。


◆アドボカシーにおけるデータ
表2 プレゼンテーションの構成例 

業務の改善やサービスの拡充だけでなく,地域の人々や行政担当者,議員などに図書館への支援と協力を訴えるアドボカシー活動にデータを活用しようという記事も掲載されている。数字を使った話は分かりやすく,聞いた人がさらにそれをほかの人に話してくれやすいこと,どのようにデータを使い,話を組み立て,議論を前向きに進めていくか,非常に具体的に述べている。例えば,表2は,その中で示されているプレゼンテーションの構成例である。


◆データ活用を促進する環境

巻頭言の中でもPLAが提供する「プロジェクトアウトカム」2及び「ベンチマーク」3が紹介されている。いずれもPLAのWebサイト内にあるデータ活用のためのサービスである。プロジェクトアウトカムは各館でアウトカム調査を実施するためのツールキットなどを,ベンチマークは全米の図書館統計のほか国勢調査局等の各種データを使って容易に自館の状況を把握・分析できる機能を提供している。類似図書館との比較も簡単にできるようだ。

このような,容易にデータの活用ができる環境が,データを使った図書館経営を促進する大きな要因になっている。この点もまた,われわれの一つの大きな課題である。



<注・参考文献>

1.米国の多くの公共図書館が取り組んでいる学校の夏休み期間の読書推進活動。例えば「米国の夏休み読書推進プログラム」(カレントアウェアネス-E.2010.08.05, (176), E1078.“https://current.ndl.go.jp/e1078”(参照2023-12-18))で紹介されている。

2.Public Library Association.Project Outcome.“https://www.ala.org/pla/data/performancemeasurement”(参照2023-12-18)

3.Public Library Association.Benchmark:Library Metrics and Trends.“https://www.ala.org/pla/data/benchmark”(参照2023-12-18)