動向レポート Vol.6
Dokk1 からOodiへ:公共図書館の新しい表情

図書館のルネッサンスと都市間競争

近年,ほとんどの自治体等で財政悪化による深刻な予算削減が目立つ反面,様相を一新する公共図書館の新館があちこちで誕生している。このような動きを「図書館ルネッサンス」と呼ぶことがある1。図書館が単なる読書施設ではなく,コミュニティを支える「社会的基盤」として,人々の学習,余暇,出会いの場となり,また提供する多様なサービスや「体験」の様子が図書館の復興を感じさせるというのである。あながち的外れな命名ではない。

好例は,アムステルダム公共図書館(2007年開館)やバーミンガム(市立)図書館(2013年開館)などで,開放的で,居心地がよく,規模の利点を生かして仕事や生活から生じるさまざま要求への対応がなされている。図書館のうち・そとの景観,読書・調査研究のための豊富な資料,使い勝手のよいサービス,時をすごすのに心地よいスペース,さらにカフェ,レストラン,レクチャーホールやシアター,そして繰り広げられる多様で豊富なプログラム(イベント)は,図書館のサービス範囲を広げている。

世界経済のグローバル化が進展するなか,それぞれの都市が将来に向かって歩を踏み出ししのぎを削っている。こうした新しい図書館の立ち上がりは,それに沿った動きといえる。先年アムステルダム市立図書館の前館長ハンス・ヴァン・ヴェルツェンにインタビューをした折,欧州の都市間での競争に触れ,図書館には都市の価値を高める側面があるという話に及んだ。都市の成長を論じたリチャード・フロリダ(Richard Florida)の都市経済の議論などに符合する議論だった。

フロリダによれば,現代都市の成長・繁栄は,過去のように企業誘致ではなく,クリエイティブ資本(つまり創造性のある職業人。先端的な技術を作り出す人々はもちろんだが,例えば日本の「改善」の担い手になる,現場の人々など)が決め手になる。そしてクリエイティブな人々を引き寄せる要因は,①技術・ハイテク産業,②自然と文化のアメニティ,さらに③多様性を受けいれる寛容さが都市に備わっていることだという。アムステルダム公共図書館は,コレクション面で技術・ハイテク産業の需要に応じ,施設として文化のアメニティを構成し,また,三番目の点に関しては,寛容を伝統とするオランダらしく性的少数者のLGBTI情報センターを館内に設置している。

二つの公共図書館への訪問

都市図書館の新たな動きをさらに追って,この夏,北欧の二つの都市の公共図書館を訪問した。

一つは,IFLA(国際図書館連盟)のPublic Library of the year 2016を受賞したデンマークのオーフス(Aarhus)公共図書館Dokk1(2015年開館)である。ネットでは,ベイエリアに佇む全体写真とともに2,図書館中央部のランプ(傾斜のある通路のような空間)と呼ばれるイベントスペースが紹介され,多くの関心が集まった。

(写真1:Dokk1)

もう一つは,今年8月末のIFLA総会でPublic Library of the year 2019受賞が最終的に決定した3ヘルシンキ市新中央図書館Oodiである。ヘルシンキ市立図書館といえば,2000年にビル&メリンダ・ゲイツ財団の第1回の学習支援賞(Access to Learning Award)を受賞したことを記憶している人もいるだろう。その際は,いちはやくコンピュータやインターネットを住民に提供するプログラム(イベント)を実施し,多くの住民に支持されてきた。しかし,2018年12月に開館したこの新中央図書館Oodiは,これまで図書館に訪れていなかった人々をも誘い,新しい顔をこの図書館に付け加えた。

この二つの都市図書館は,アムステルダムやバーミンガムのものから数年から10年ほど後に開館したから,先行した図書館を観察しつつ計画できた次の世代のものといってよい。

(写真2:Oodi)

オーフス公共図書館Dokk1

デンマークの公共図書館の素晴らしさは,つとに知られている。2007年の地方行政改革のあおりで図書館数が激減したあとも,「オープン・ライブラリー」(職員のいない時間にも,個人IDカードで入館でき,資料はもちろんのこと,スペースや種々の機器などをセルフサービスで利用可能)を全国的に展開し,利用者の減少を止めるとともに,人々の学習の支援を積極的に推し進めている4

(写真3:Dokk1書架)

オーフス市はデンマーク第2の都市といっても,32万人(都市地域の人口は26万人)ほどの規模の自治体である。市の図書館システム(組織)は,中央図書館と18の分館という構成である。旧中央図書館が手狭になったために,1997年に拡張計画がもちあがり,その後議論のなかで,新しい臨海地域再開発に図書館も組み込まれ,結果北欧随一の大型公共図書館Dokk1(その場所を象徴する,公募で選ばれたこの建物の愛称)が誕生することとなった。全体3万平米の大きな建造物(1万1千平米は民間会社等に賃借している)で,地下部分に1000台収容できる完全自動化の駐車場がある(市中心部の駐車場不足を補完するためでもある。この部分も合わせると総延面積は6万平米にもなる)。そのように一部はわが国でも珍しくはない公民連携の事業で,駐車場は経営する会社の外部資金によってつくられた。

(写真4:Dokk2:ランプ)

また,公共サービス部分も図書館だけではなく,市民サービス(住民登録,運転免許,社会保険などサービスの申請などを扱う部門)が市役所からここに移っている。それだけにDokk1をつくる議論は,13年間の長丁場だったが,人々(市民,政治家,スタッフ,専門家,連携パートナーなど)の対話によってまとめられたことが,Dokk1の核をなす価値であり,設計者Schmidt Hammer Lassen Architectsはその議論を受け入れて設計したという。

Dokk1は全体としては,欧州最大のバーミンガム市立図書館の3万5000平米に匹敵するような大きさであるが,図書館占有部分は1万7500平米である。とはいえ豊富なスペースにさまざまな機能が盛りこまれている。30万点のメディア(図書22万,他のメディア8万)の他,全体1100席(オープンエリア650席),二つのホール,会議室,教室,15オアシス(リラックススペース),21ラボ,1育児室,6研究室,カフェ等々がある。それに図書館の固有な部分でも,読書室・スペースなどのほか,あちこちにプログラム(イベント)を展開するためのコーナーが設けられている。とりわけ,写真4にみるイベントスペース,ランプが建物の中心部分に位置づけられており,プログラム(イベント)が図書館にとって主要なサービスだということを意識させる。ランプは傾斜しているが,五つの平面があって,それぞれであるいは全体でプログラム(イベント)を開催できる。プログラム(イベント)は,ランプやホールなどだけでなく,図書館の開放空間の一角でも催され,月平均80〜100イベントが展開されている。そのうち,60%は市民により構成されるものだという。

(写真5:dokk1:ワーキングスペース)

これまでの図書館の機能に加えて,図書館は市民活動の場であるとして,市民・コミュニティ・協会・会社などと連携し,サービスを協創していくコミュニティ・センターの働きをつけ加えているといってよい。もちろん他のデンマークの図書館と同様「オープン・ライブラリー」も展開されている(オーフスの場合,開館時間は,週日は午前8時から午後9時まで,週末は午前10時から午後4時まで,そのうち週日の午前8時から午前10時と午後7時以降はいわゆるオープン・ライブラリーの時間帯)。

オーフスで実現されたことは,図書館が時代の要請に沿って,市民のニーズに柔軟に対応するという展開である。公共図書館がこれまで以上に開かれた公共空間として,人々の出会いの場,あるいは職場と家庭の間のサードプレイスとなることであった。似通った人同士やあるいはまったく異なった人々の出会いをきっかけに,コミュニティを育んでいく場として図書館が再定義されているといってよい。印象的な建物中央のランプだけでなく,子どものための遊び場,家族が一緒に過ごせる場の多さに驚かされる。一方で伝統的な図書館サービスも疎かにされてはいない。

専門家としての目を引いたのは,資料管理のシステムである。分館を含め,資料をどのように配置するかの在庫管理がきちんとできており(今のところ半自動),それをゆくゆくは利用者のニーズに合わせて,AIを使ったスマート・ライブラリーに仕立てようとしている。また,今年6月にも44か国から400名ほどの参加者をえて,Next Library 2019という国際会議がこのDokk1で開催されている5。Dokk1の未来への視線も熱い。

ヘルシンキ市立中央図書館Oodi

(写真6:Oodi 1階コートヤード)

ヘルシンキ・ヴァンタ空港からの電車が中央駅にそろそろ到着するというタイミングで,木造船のような起伏のある新図書館Oodiが右手に見える。ダウンタウンはターミナル駅の前面に展開しているから,側面のそのあたりは以前まったくの空き地だったところだ。一段高い少し離れたところにフィンランド議会の建物がある(議会と図書館テラスとが同じレベルになるようにつくられた。図書館も民主主義の象徴である)。近くのフィンランド音楽センターやヘルシンキ現代美術館,フィンランディアホールなどがOodiとともに中間の緑地を囲み,今ではこの界隈がとても快適な空間に大変貌した。

Oodiの設計は,544件の応募のなかから,2013年にトップ6件を街頭に表示し市民が意見を寄せるという手続きを経て,ヘルシンキにあるALAという(図書館関係者だと「えっ」といいそうな名の)建築事務所の提案が選ばれた。建築的な視点でOodiをみるには,ALAのサイト(http://ala.fi/work/helsinki-central-library/)がよい。オーフスにおいてもそうだったが,北欧の住民参加による施設計画はごくあたりまえのことである。2年前のヴロツワフで行われたIFLAでも,ヘルシンキ市分館の図書館運営に住民が実質的に携わる報告6があり,住民の参加と人々の成熟した関与に感心させられた。

Oodiの計画に関しては,10年ほどの準備期間に積極的に市民との議論が行われた。新しい図書館のために,2000件以上のアイデアが市民から出された。それを反映させ, Oodiの中核となる考え方は,次のようにまとめられた7

 ①開かれた,非商業的な,公共スペース

 ②もっと高機能となっていく社会に対応する情報とスキル

 ③住民自身がつくる豊かな都市生活経験

 ④本による新たな生活(トーロン湾の読書の家)

Oodiとは,Odeのことであり,フィンランドの図書館,読書,民主主義,そして表現の自由への「讃歌」という意味で,この施設は,フィンランド図書館法(2017年改正)が規定する「敎育と文化への全ての人のアクセスの機会平等」「生涯学習とコンピテンス開発」「活動的なシティズンシップ」を推し進めるためのものだという。

さて,Oodiは,約1万7000平米で,館内98%は利用者に開かれたスペースである。構造は,橋梁のようで,1階は橋の下,2階というかミドルフロアーは,橋のなか,3階は橋上で,それに屋根がついているような形である。森林資源の豊富なフィンランドらしく,1階はトウヒ材を,2階はカバ材,3階はオーク材,そして3階テラスはマツ材など,木材をふんだんに使っている。

(写真7:Oodi 1階入り口レセプション)

1階に入り口,インフォメーションのほか,集会やガラコンサートができるホール,イベントルーム,レストラン,映画館などがあり,また,屋外の開放的なコートヤードには,子どもの遊び場,ジャズやロックの小さな演奏用のステージやバスケットコートなどがあり,催しは,屋内でも屋外でも行われる(写真6)。

(写真8:Oodi 2階 階段状スペース)

2階は,学習のスペースである。これまでどおり静寂な学習室もあるし,そうした「ディープ・ワーク」のためのスペースだけでなく,共同作業のできる「コ・ワーク」スペースも用意されている(写真8は,その一部として使われている階段状の空間)。一方,直に手で触れて学ぶスペースでは,3Dプリンター,レーザーカッター,ミシン,刺繍ミシン,その他,生活で使うさまざまな電気器具が備えられている。人々がここでものをつくったり修理などをしたりするための作業場であり,また子どもたちが工作をして学ぶ場でもある(写真9)。

(写真9:Oodi 2階メイカースペース)

ユニークな試みとして,多感覚スペース(「キューブ」)があり,イベントやゲーム,あるいはブレインストーミングに使い,今後の問題を検討する場合「フーチャーセンター」ともなる。

(写真10:Oodi 親子のエリア)

3階は,書架が並ぶ図書資料のスペースである。船のように床が両端上のほうに反っていて,一方の端は子どもたちのエリアである。前面(写真10)では親子が絵本などを開きくつろいでいる。お話会のエリアは奥まったところにあり,その屋上は乳幼児のエリアたちが走り回れる(写真11)。起伏がありかなり広く,すべての年齢の子どもたちと家族の広場といってよい。

(写真11:天井の上に乳幼児,中がお話コーナ)

そこから大人のエリアが続いていて,カフェと職員がいる島状のカウンターが中央にある。アコースティックがよく,子どもたちのエリアが同じ階にあることが全然気にならない。この書架と椅子の配置されたリーディングルーム全体が,本当に快適な空間になっている。

Oodiのこのリーディングルームに入ったとき,その少し前に訪問したある新築の図書館を思い浮かべ,違いの大きさに目を見張った。これは図書館を知悉したプロの仕事だと思った。空間のボリューム感,カラーの使い方,光,音への配慮がうまく,そして良質な家具や植栽が配置されている。また,西側に広大なテラスがあり,夏の心地よい日差しのもと屋外の座席で読書やおしゃべりを楽しむ人々で賑わっていた。

(写真12:Oodi 3階リーディングルーム)

もう一つは,ロボットたちである。アームがついていて,本を持ち上げ整理棚に並べるバックヤードのロボットもあるが,利用者にみえるのは,返却資料を積んで,地下からエレベータに乗って3階まで運んでくる姿である。それに,このロボットと同じ形で目がついていて可愛らしいロボット(写真13)が,3階に上がったところで利用者を待ち受けていて,スクリーンに質問を入れると,その資料のありかまで導いてくれる。

(写真13 Oodi:案内ロボット)

図書館のロジスティックスや案内にロボットを採用するアイデアは珍しくはない。しかし,これらのロボットはかなり洗練されていて,もちろん障害物や人を避け,資料を目的位置まで運んでいくだけでなく,利用者を書架まで誘導する。このためには,ロボットが資料のありかを知っていなければならない。それを実現している秘密は,図書館システムとの統合にある。図書館システムがきちんと所在のありかまでを管理できているということである。

なお,このロボットとは別に,図書館システムの資料所在の把握は,中央図書館Oodi内資料だけではなくヘルシンキ市図書館の全体にわたっている(オーフスでの同じ試みを上に触れた)そして今年の5月からAIによる資料管理システムの運用を始め,すべての図書館の資料は,AIが利用の状況を判断し,どこにおくか決定されるようになった8。情報提供サービスは,各館所蔵の範囲ですむのではない(Oodiはコレクションは10万点だから,ヘルシンキ地域のHelmetという図書館ネットワークを使う)。利用者が必要とするもの自館になければそのあり方を探し,見つけ出したらいちはやく利用者にもたらす便宜がなくてはならない。

ひっきりなしに人がOodiの入り口に吸い込まれていく。開館以来,1日に8000人もの来館者があり,年換算すれば,250万に達する。開館時間は週日8時〜22時,週末10時〜20時である。プログラム(イベント)はあちこちで行われ,レストランやカフェも賑わっている。真剣に研究や学習に取り組む人,ものづくりの手法を職員に尋ねている人,書架の間のゆったりとした空間で読書にいそしむ人,テラスで談笑する人,いろいろな人が思い思いに図書館のある生活を楽しんでいる。これが,現代版図書館ルネッサンスの一つの到達点といえるかもしれないが,その基本姿勢は人々にわけへだてなく必要な対応することである。

末尾になってしまったが,今回の訪問については,休暇シーズンにもかかわらずDokk1のOve Lading氏,OodiのKari Lämsä氏にご案内いただいた。厚く御礼を申し上げたい。

2019-10-07 永田 治樹



1 ARUP, Future Libraries : Workshps Summaru amd E,ergomg Insights. 2015.
https://www.arup.com/perspectives/publications/research/section/future-libraries

2 https://systematic.com/library-learning/nyheder/2016/dokk1-named-worlds-best-public-library/

3 https://systematic.com/library-learning/awards/public-library-of-the-year/vinder-2019/

4 Nielse, Bo Gerner & Borlund, Pia, Public libraries and lifelong learning, Perspectives of Innovations, Economics & Business, vol. 14, issue 2, 2014. P. 94-102.

5 Next Library 2019.
http://www.nextlibrary.net/all-about-next-library-2019

6 Saara Ihamäki & Antti-Ville Reinikainen : Power to the people – a key to develop attractive, functional services of the new era.

7 Kari Lämsä. Story of Oodi.
http://eru.lib.ee/images/stories/ettekanded/181018-Lamsa.pdf

8 Helsinki City Library will be introducing an AI-based Intelligent Material Management System.
https://www.helmet.fi/en-US/Events_and_tips/News_flash/Helsinki_City_Library_will_be_introducin(186937)