動向レポート Vol.5
『ホライズン・レポート2017図書館版』について

先般,当研究所において開催した公開講演会(「変わりゆく時代の図書館・図書館情報専門職・図書館情報教育」)で,米国サンノゼ大学・情報スクールのサンドラ・ヒルシュさんが,ホライズン・レポート(Horizon Report)を下敷きにして,図書館の抱える問題や実際の状況を紹介した。立教大学の中村百合子さんの爽やかな通訳もあって,久しぶりに面白い講演が楽しめた。

ただ,そのなかでの参照事例が大方公共図書館のものだったのは少し驚いた。というのも,ホライズン・レポートは元来高等教育における今後の技術的トレンドを示すもので,その図書館版も学術・研究図書館が対象である。情報技術の面においてかなり遅れをとっている公共図書館の事例でよいのかといぶかった。しかし,それらは牽強付会なものでなく,現状を示す好例だった。市民生活に密着する公共図書館では,情報化の進展がつくりだす新たなサービスに当然取り組むはずである。米国などでは,公共図書館でも学術・研究図書館と近似の状況が発生しているといえるようだ。

ただし,わが国の公共図書館ではこれまでのところ,情報化への対応は,種々の理由により限定的であり,学術・研究図書館と公共図書館とのこの分野におけるサービスの差異はきわめて大きい。しかし,情報化がわれわれのライフスタイルを大きく変えてゆくに従って,人々のニーズに合致するように図書館のサービスが拡充・改変されるのは必至である。公共図書館の今後を展望するのに,このレポートに目を通しておくのは有用と思われる。というわけで,今回は『ホライズン・レポート 2017図書館版』を『動向レポート』にとりあげる。

ホライズン・レポートは元来,高等教育に影響を与えるテクノロジーをリストアップし解説したものである。教育技術に関する国際的なエキスパートのグループ,ニューメディア・コンソーシアム(NMC)が取り組んだ「教育,学習,創造的な探究に関連する新たなテクノロジーの状況を探るプロジェクト」の成果であり,2004年から毎年刊行されている。2014年以降,①今後1年以内に、②今後2~3年のうち、③今後4~5年のうちにという視野(ホライズン)で、問題になる主要な6のトレンド,6の大きな課題,技術や実践の重要な6の発展,合計18のトピックの解説という構成である(2009年版以降,高等教育版については,放送大学が翻訳協力し,「日本語版」と称して,ウェブに掲載 https://www.nmc.org/publication/nmc-horizon-report-2017-higher-education-edition-japanese/)。

そして2009年には,高等教育だけでなく,K-12(初等・中等教育)にまでその対象領域を広げ,その後,博物館と図書館を対象に加えた。現在ホライズン・レポートは都合四つの版(日本語としては「編」といったほうが自然だが)で刊行されている。図書館版は,一番新しく加えられたもので,2014年,2015年に刊行され,最新のものは1年をおいた2017年図書館版(https://www.nmc.org/publication/nmc-horizon-report-2017-library-edition/)である。

クール(スイス)にある応用科学大学(University of Applied Science),同じくチューリッヒの連邦工科大学( Eidgenössische Technische Hochschule: ETH)図書館,ハノーファー(ドイツ)の国立テクノロジー図書館(Technische Informationsbibliothek: TIB),それに アメリカ大学図書館協会(ACRL)(2017年版から)の協力をえて,図書館版はニューメディア・コンソーシアム(NMC))が作成している(ちなみに,高等教育版は,現在NMCとEDUCAUSE学習イニシャティブ(Learning Initiative)との共同作成)。ホライズン・レポートの中心となる専門家パネルについて図書館版では,学術・研究図書館に強い関わりを持つ77名の教育と技術の専門家(巻末にリストが掲載されている。サンディ・ヒルッシュさんもメンバーである)から構成された。

ホライズン・レポートの作成作業は,この専門家パネル構成員の決定を受けて進展する。まずは新たに出現したテクノロジーを掲載している文献の体系的なレビューから作業が始まり,そこで拾い上げられた課題がその関連資料ととともに専門家に配付され,それぞれ検討に付される。とくに価値のあるものが残されたところで,全体でトピックを整理するために,改めて専門家に質問(今後の5年間において①テクノロジーの適用を推進させる主要なトレンド,②①を妨げる重大な課題,③もっとも重要なテクノロジーの発展,④リストに挙げられていない重要な進展)が送られ,その回答結果を反映させたランク付け暫定リストがつくられ,図書館への影響が再吟味され,セミファイナル・リストを経て,最終的なトピックの決定が行われるというプロセスをとる。最初にあげられた項目からトピックが絞り込まれていくこのプロセスについては,すべての版に共通して,その成り行きがWikiソフト上で展開されるため,ホライズン・レポートの作成過程はだれもがみられる透過的なものとなっている(http://library.wiki.nmc.org/)。このようにきわめてオープンな手順のもとで,ホライズン・レポートは作成される。

また,レポート構成も各版において対象領域は異なるものの,次のように定型化されている。ここで丸かっこ部分が図書館版で付加されている表現である。


ホライズン・レポート2017年図書館版
 目次
  1. 要旨
  2. イントロダクション
  3. (学術・研究図書館への)テクノロジー適用を推進するトレンド 
  4. (学術・研究図書館への)テクノロジーの適用を妨げる課題
  5. (学術・研究図書館に関わる)テクノロジーの重要な発展
  6. パネルの構成員名簿
  7. 巻末注

さて,このなかの,本文の三つのセクション(3〜5)で解説されるトピックスが,専門家パネルでランク付けされた部分である。それを紹介してみよう。

「3.学術・研究図書館へのテクノロジー適用を推進するトレンド」では,図1にみるように,三つのホライズンに位置付けられる。まず向こう1〜2年の短期的なトレンドとして,1)研究データ管理と2)利用者体験の評価とがあがっている。

1)研究データ管理については,さまざまな分野で生み出される研究データ(例えば,生命科学のヒトゲノム)はすでに広く共有されるようになり,新たな研究成果に結びついている。それを可能にしたのは,情報のディジタル化,情報共有のためフォーマット,ワークフローの標準化などの進展である。そこで学術・研究図書館には,このような研究データを扱うために,データの性質を理解しそれを適切に分析,可視化,保存するといったディジタル資産管理(DAM)が期待されるようになっている。(これについては,Carly Strasserが作成したNISOの「研究データ管理」手引書などを参照されたい)。このトレンドは,現段階では学術・研究図書館におけるものであるが,研究データは社会的なものとして,短期的な見通しではないが公共図書館にも関わってこよう。

2)は,近年における顧客のサービス体験を改善することをめざすもので,営利部門に限らず,公共部門でもこの流れは大きな潮流となっている。公共図書館もむろんこれに注力する必要がある。人々の利用行動を常々観察し方策を講じるのである。また,昨今の図書館サービスにおいては,ディジタルサービスの領域が拡大しており,利用者と図書館との接触のポイントは広くなっている点にも留意したい。

中期的なトレンドでは,3)創造者としての利用者と,4)図書館スペースの再考とがあげられている。3)は,利用者は単にコンテンツ(資料)を消費(利用)するだけでなく,ものの創造に関わり学習することに注目する。このプロセスの重要さが認識され,そのようなサービスがさまざまに提供されるようになっている。「人々は今や図書館に,ものの創造に関する支援や,そのためのスキルを身に付けたりする道具の提供を期待しており」,図書館でも,3Dプリンター,フレキシブル・ディスプレイ,メディア制作ツール,ナチュラル・ユーザ・インタフェース(NUI)などを備えるようになった。

冒頭の講演会では,米国公共図書館における「コーディング・ハッカソン」,「イノベーション・ラボ」あるいは「メイカー・スペース」などのイベントやそのための場の設定の事例が紹介されていた。ソフトウェア開発,あるいはものづくりを巡って,人々がイノベーションのために協働する仕掛けが公共図書館でも不可欠になっているというのである。また,こうした図書館の利用に必要なスペースは当然,これまでの読書空間とは違う。それにそもそも情報のディジタル化によって,これまでの物理的な図書を中心とする読書スペースだけはすでに間に合わなくなっている。また,公共図書館が今では地域の人々の交流の場としても期待されている。4)図書館スペースの再考は,その優先度が広く認められる課題となっている。

図1 学術・研究図書館へのテクノロジーの適用を推進するトレンド

5年ほどか,それ以上を想定した長期的トレンドとして,5)機関をまたがる連携と6)学術レコードの進化する性質があげられた。従来から図書館は図書館間の相互協力によって種々の問題を克服してきた。今後さらに多くの,より幅広い情報が求められるようになる一方,図書館の財政的な難しさは深刻化しているのだから,5)機関をまたがる連携(コンソーシアムの形成など)は必然的な成り行きである。連携は国際的にも広がり,また内容もいわゆるコンテンツだけではなく,テクノロジーやさまざまな課題が対象となる(公共図書館では地域の課題を他の機関と共有するようになる)。6)の学術レコードの進化する性質とは,かつては印刷ベースのジャーナルだったものが,ネットワーク環境に展開されるようになって,ビア・レビュー(査読)が済み迅速に公表されるだけではなく,ウェブやSNSなど多様な出版(発表)が行われるなど,その手段もますます進化している。図書館には今以上にこのような状況への対応が迫られよう。

さて,「4.学術・研究図書館へのテクノロジー導入を妨げる課題」では,三つの困難段階に六つの課題を当てはめている。

解決可能とするものは,7)図書館サービスと資源の[障がい者等の]アクセシビリティ,8)ディジタル・リテラシーの強化である。

7)に対しては,これまでも図書館は積極的に取り組んできた。さらにユニバーサルデザインの原理に基づく活動を推し進めることによって,すべての利用者の図書館体験を改善し,また障がい者等の利用条件の平等化を確保する。そのためにはまた,さまざまな機関との協力も不可欠であるという。もう一つの,8)のディジタル・リテラシーの強化については,21世紀において人々は仕事場においても日常生活においても革新的なテクノロジーを駆使しなくてはならず,図書館はディジタル・リテラシーの水準を向上させ,テクノロジー進展に対応し,継続的にこの問題に取り組んでいく必要があると指摘する。

図2 学術・研究図書館へのテクノロジー導入の妨げとなる重大な課題

二つ目の,解決はかなり難しいとする課題は,9)今後の仕事に適合する組織デザインと,10)継続中の統合・相互運用性・連携プロジェクトの維持である。解決の糸口は見つけにくいものだが,図書館に要求されるところを十分に果たすには,もっと機動的に利用者に対応しうる組織が望まれる。それには,伝統的な階層組織ではない,柔軟で,チームベースのマトリックス的な構造が必要だという。しかし,そのように組織を改変し,人材の育成を図るのは容易ではない。急激な変化にはスタッフの抵抗も予想されるし,効果の実を上げるのは難しい。他方,今後の図書館に必要な安定した財源と技術進展への対応能力を確保・整備していくためには,ひとり図書館だけではできないから,組織内の他部署を含めてさまざまな他の機関と連携したり,技術的な共同研究をしたり,さらにはシステムの相互運用などの実施が求められる。

三番目の,非常に解決は難しいと思われる課題は,11)経済的,政治的な圧迫,12)抜本的な変更ニーズの取り組みだとしている。公的な資金の図書館への配付はますます削減されるだろう。それに対して,提供すべきサービスは増え,多様化し,そのために賄わざるをえない費用は増大している。唯一オープンな情報資源だけは費用削減の手立てとなる。そうした知的自由を守るような取り組みだけが現状に対抗しているものだといえるが,それで状況がすべて打開できるというわけではない。

抜本的な変更ニーズという課題は,スタッフのあり方や財源への対応など,図書館の機能やサービスのすべてに影響を与えるリーダーシップの問題である。モバイルテクノロジーが進展して,図書館を使わずとも人々は情報にアクセスできるようになっており,また情報がクラウド化され有形なものではなくなっていくなかで,図書館という物理的な施設がその役割をどのように発揮していくかが問われている。人々を支援し,コミュニティを支えるためには,抜本的な変更を実現しうる指導性が問題になっているのである。

図3 学術・研究図書館に関わるテクノロジーの重要な発展

最後のセクション,「5.学術・研究図書館に関わるテクノロジーの重要な発展」は,「3.学術・研究図書館へのテクノロジー適用を推進するトレンド」(図1参照)と同様三つのホライズンに沿って展開されている(図3)。

ニューメディア・コンソーシアムはテクノロジーについて七つのカテゴリー(消費者向けテクノロジー,ディジタル戦略,インターネット・テクノロジー,学習テクノロジー,ソーシャルメディア・テクノロジー,可視化テクノロジー,イネイブリング・テクノロジー。これらのカテゴリー理解には,以下の事例を参考に類推して欲しい)で追跡している。テクノロジーはたいてい学術・研究図書館に向けて開発されているわけではない。しかし,それを活用すると,図書館の意思決定に深く関わる状況を生み出すものがあり,それらがここで取りあげられる。

1年かそれ以内という期間では,13)ビッグデータと,14)ディジタル学術研究テクノロジーがあげられた。ビッグデータとは,調査などで収集される構造的なデータの採取ではなく,システムが日々大量に集積するデータで,ときに利用者などの活動性向を発見できる源泉になるものである。図書館はそうした大きなデータを蓄積しうるから,それらを活用することはごく自然の成り行きであり,その活用への期待は大きい。しかしデータの運用に関しては,利用者のプライバシーなど倫理的な問題に十分に留意しなくてはならない。ちなみにビッグデータのテクノロジーは上のカテゴリー分類では,道具やデバイスをさらに転換し活用できるという「イネイブリング・テクノロジー」に入っている。

14)のディジタル学術研究テクノロジーは「知識へのアクセス,探索,そして応用を支援するためのテクノロジーの導入」(CILIPの定義)とでもいえるもので,もともとはe-scienceとか,e-scholarshipとか呼ばれる領域にあって,「その成果には,ディジタル・メディア,ウェブサイト,学術情報のアーカイブ,ディジタル展示などがあり,ディジタル人文学など,学際的な領域に広がるものが多い」。すでに学術図書館ではこのような研究情報の蓄積に積極的に関与するようになっており, College and Research Libraries News誌では2016年のトップ・トレンドにあげられている。このテクノロジーは,「インターネット・テクノロジー」のカテゴリーに入る。

中期的な見通しとしては,15)図書館サービスのプラットフォームと,16)オンライン・アイデンティティがあげられた。

図書館における業務やサービスの自動化システム,あるいは資源管理システムは,大きな分岐点にあるといわれて久しい。利用者は多様なデバイスを使うようになり,またどこからでもアクセスしようとする。一方,図書館システムの景観はますます複雑になり,それに資源にはさまざまなフォーマットが使われている。これまで印刷物を主対象とした,20世紀のテクノロジーによって構成された図書館システムは明らかに適切でなくなっている。とはいえ,それを廃棄し新たな図書館サービスプラットフォーム(LSP)にはなかなか到達できてはいないのである。ウェブ中心の,広範囲の資源を管理する,そして図書館の環境変化に対応できるLSPの構築は,にわかには実現しにくいと考えられ,ここに位置づけられた。これも「インターネット・テクノロジー」のカテゴリーに入る。

もう一つのオンライン・アイデンティティ(あるいはディジタル・アイデンティティ)とは,ディジタル社会でやり取りされるすべては,固有性を示すデータを付与されていて,それによってモノでも人でも同定されることについてである。ネットワーク上使われるさまざまな識別子の状況(「ペルソナ」問題などを含む)を理解し,人々はプライバシーや認証のあり方を心得ておかねばならない。だから図書館には,ディジタル・アイデンティティをディジタル・リテラシーの一つとして支援していく必要があるという。このテクノロジーは,「ソーシャルメディア・テクノロジー」のカテゴリーに入れられている。

長期的な見通しとして,影響を持つテクノジーは,17)人工知能(AI)と,18)モノのインターネット(IoT)である。コンピュータに人間の認知,学習,意思決定などの能力を模倣させる知識工学を使ったAIが活用されており,その範囲は急速に拡大している。図書館においても機械が利用者の要求に応じてコンテンツを提供することも試みられるようになっており,急速に進展するAIにより,さらに洗練されたデータベースなどが登場してくるものと思われる。一方,AIの活用が拡大することによって,人々の活動も進化するという可能性がある。

最後のトピックは,コンピュータの能力を付与されたモノは,インターネットを通じて,その遠隔管理,状況監視,あるいは追跡や警報の発信などができるようになるという展開で,モノのインターネットと呼ばれる。図書館での貸出,蔵書管理,盗難阻止のためのRFID技術の応用は原初的な一例である。これも今後はビーコンを用いて位置を把握するものなど,より高機能になっていこう。ただし既存の多くのIoTにあるセキュリティに関する脆弱性は改善されねばならないし,またモノのインターネットは分散型が望ましく,現在,ビットコインに使われているブロックチェーンのような技術を応用し,分散的に情報を自由に流通させるテクノロジーが確立されれば,図書館にもより快適な視界が開けよう。AIとブロックチェーンは,「イネイブリング・テクノロジー」,IoTは「インターネット・テクノロジー」に分類されている。

『ホライズン・レポート図書館2017年版』は,以上18のトピックを選んだ。それぞれのトピックは,項目ごとの意味合いを記載したあと,「3.学術・研究図書館へのテクノロジー適用を推進するトレンド」及び「4.学術・研究図書館へのテクノロジー導入の妨げとなる重大な課題」では,それぞれ「解説,概観,政策,リーダーシップ,実践で予想されること,参考情報」が2ページにわたって記されている。なお,「5.学術・研究図書館に関わるテクノロジーの重要な進展方法」では,「概観,学術・研究図書館への関連性,実践例」である。それとともに,ニューメディア・コンソーシアムが設定したホラインズン・レポートのための六つのメタ・カテゴリー(①アクセス及び利便性の拡充,②イノベーションの促進,③信頼のおける学習・発見の推進,④社会的変化の調和,⑤研究や利用者のデータの追跡,⑥ディジタルなものへの対応力)をロゴの形で各トピックのページの冒頭に示し,それぞれのトピックがどのような性格をもつか,またそれによってトピック相互の関連性を提示している(例えば,モノのインターネットは,③と⑤と①のロゴが付されている)。

なお,この18のトピックを根拠づける変化の大局的な認識が最初に「要旨」(エグゼクティブ・サマリー)として,次のようにまとめられている。トピックが展望の個別解説であるのに対し,この部分は現在の状況を洞察したものであり,ホラインズン・レポートの図書館の見方を表しているとみてよい。

①ウェブ資源が増大し,情報や知識が織りなす豊穣な領域への,情報を発見し,要約し,追跡するための案内者として図書館はとどまる。

②進化を続ける出版物のフォーマットに遅れをとらず,新しいメディアとテクノロジーを図書館の戦略計画に組み込むことは不可欠である。

③財源的な制約に直面して,費用の上昇を回避するオープンアクセスが見込みのある解決策である。

④図書館は,個別の学習・研究と協働の学習・研究との,いずれに対しても役立つスペースであるようバランスをとる。物理的スペースの,用途に応じたデザインが図書館にとって最優先事項となっている。

⑤利用者に効果的に応じるには,利用者中心のデザインとアクセシビリティに焦点を当てることが求められる。ユニバーサルデザインの原理に合わせ,利用者のニーズのデータを集めたプログラムに基づくことが重要である。

⑥ディジタルを使いこなす能力(ディジタル・アイデンティティ,コミュニケーションエチケット,権利と責任などを理解したディジタル技術の活用,ディジタルシティズンシップ)の習得の支援が中心的な役割となる。

⑦図書館は,その基本的な価値を積極的に擁護しなくてはならない。公益やネットワークの中立性を蝕む政策に対決し,情報プライバシーや知的自由を守る。

⑧革新的なサービスや図書館運営を進展させるには,組織構造の再検討が必要である。利用者のニーズに適合する,俊敏に自由自在に動ける対応が必要である。

⑨学術的ディジタル技術(GISデータ,データ可視化,ビッグデータなど)により図書館に蓄積され共有されるデータは拡大しており,研究の状況を進化させている。

⑩人工知能とモノのインターネットとは,図書館体験をパーソナライズし,図書館サービスの有用性と広がりを拡大しようとしている。

2017-12-27 永田 治樹


付録 三つの図書館版の採用トピックの変遷

表1 三つの図書館版の採用トピックの変遷
  2014 2015 2017
テクノロジー適用を推進するトレンド テクノロジー,標準,下部構造における継続的進展    
機関をまたがる連携    
学術レコードの進化する性質
研究コンテンツのアクセシビリティの改善  
創造者としての利用者    
モバイル用のコンテンツとそのデリバリーの優先化  
研究データ管理
図書館スペースの再考  
多分野にまたがる研究の新形態    
利用者体験の評価  
テクノロジー導入を妨げる課題 図書館サービスと資源の[障がい者等の]アクセシビリティ    
今後の仕事に適合する組織デザイン    
研究のディジタルアウトプット資料の確保とアーカイビング    
ディスカバリー手法に関する競争  
経済的,政治的な圧迫    
カリキュラムへの図書館の組み込み  
抜本的な変更ニーズの取り込み
ディジタル・リテラシーの強化  
継続中の統合・相互運用性・連携プロジェクトの維持  
知識の陳腐化への対応    
図書館員の役割とスキルの再考  
テクノロジーの重要な発展 人工知能(AI)    
ビブリオメトリックスと引用技術    
ビッグデータ    
ディジタル学術研究テクノロジー    
電子出版    
情報の可視化    
図書館サービスのプラットフォーム    
ローケーション・インテリジェンス    
機械学習    
メイカースペース    
モバイル機器用アプリケーション    
オンライン・アイデンティティ    
オンライン学習    
オープン・コンテンツ    
セマンティック・ウェブとリンクト・データ  
モノのインターネット